発掘調査

穴山窯跡の発掘調査

 瀬戸市山路町にある穴山窯跡での発掘調査は、土砂採掘工事に伴い、平成30年7月10日から11月16日にかけて実施しました。調査区は、南から北へ向け短く伸びる丘陵の標高245m前後の東向斜面に約1,000㎡を対象として設定しました。本窯跡のある丘陵は、以前より大規模な土砂採掘が継続して行われており、窯体やそれに伴う前庭部及び付属施設等の遺構はすでに滅失していました。ただし、灰原のある斜面は削平を免れたものの、度重なる盗掘によりその全域にわたり少なからず影響が及んでいました。
 調査の成果として、前庭部の末端付近から灰原にかけて検出することができました。しかし、灰原における灰層の堆積状況は細かく確認することはできませんでした。灰原の基盤となる地形は、調査区のほぼ中央付近に、斜面の稜線に直行する方向に浅い谷状の窪みが形成され、これを挟んで南側と北側に遺物層の分布が認められました。
 出土した遺物は、収納用のコンテナに換算して約1,000箱分に相当する量がありました。残念ながら、盗掘による影響が大きいため、操業時に廃棄された状態のままの位置を示す遺物は少なく、大半は小さく割られた破片資料として採取しました。
 器種組成では、大きく山茶碗のグループと古瀬戸のグループに分類可能です。前者は山茶碗焼成窯、後者は古瀬戸焼成窯を利用した異なる窯炉で生産された製品と考えられます。
 山茶碗のグループには、山茶碗とそのセットとなる小皿、少量ながら片口鉢、その他には陶丸や入子、そして窯道具類である焼台があります。一方、古瀬戸のグループは、多種多様な組成で、大きくは碗類、皿類、鉢・盤類、瓶・壺類、鍋類、その他に分類されます。代表的な器種として、碗類には、天目茶碗、平碗、平底末広碗、皿類には、折縁小皿、丸皿、卸皿、底卸目皿、鉢・盤類には、柄付片口、折縁深皿、瓶・壺類には、瓶子、仏花瓶、片口小瓶、水注、水滴、四耳壺、茶壺、広口壺、茶入、合子、鍋類は内耳鍋、その他として、香炉、蓋などがあります。また、窯道具類として焼台、トチ、匣鉢などがあり、匣鉢は大形と小形に分類可能であり、前者は主に天目茶碗と小皿類、後者は茶入に利用されています。特筆すべき器種として茶入が挙げられます。茶入には、丸壺と擂座と呼ばれる形態のものがあり、肩衝や大海のものは今のところ確認できていません。古瀬戸様式における擂座茶入は、既存の資料が少なく編年的研究は十分とは言えません。また、茶入用の匣鉢が数多く出土したこともあり、茶入の焼成方法を検証する上で、有効的な資料になり得ると期待しています。
 本窯跡の帰属時期について、山茶碗・小皿の形態的特徴からは概ね尾張型第9型式に相当し、片口鉢もまた同時期の特徴を備えています。古瀬戸製品は、出土遺物の特徴を総合的に判断した結果、古瀬戸中期の後半(中Ⅲ・Ⅳ期)を中心として後期の初め(後Ⅰ期)のものまで含まれています。従って、14世紀中葉から14世紀後葉までが本窯跡の操業期間に相当します。灰原の南側と北側の領域では、それぞれ山茶碗類と古瀬戸類の両者が出土しており、全ての出土遺物の分析結果を十分に検証した上で、山茶碗焼成窯と古瀬戸焼成窯がどの位置に存在し得たのか考察を進めたいと考えています。


穴山窯跡 全景(上空から)


穴山窯跡 調査状況


穴山窯跡 全景(南東から)